誰もが名前を知っているにもかかわらず、その「厄介さ」が中々周知されないのが腱鞘炎です。
当然のことながら命にかかわるものではありません。がん・脳卒中等と比較すれば『病』というカテゴリにすら入らないのかもしれませんが、腱鞘炎が日常生活のパフォーマンスを激的低下させることには絶対です。明確に「発生した」「完治した」ということが分かりにくいですし、薬を飲み続けていれば治るようなものでもありません。
PC作業の効率が大幅に下がりますし、ペンを持つのも抵抗が出てきます。場合によっては生活が成り立たなくなることだってあるでしょう。決して侮って良いものではありません。
…というわけで、自身の経験による「もし腱鞘炎になったらこうしましょう」というマニュアルを書いてみることにしました。
・手術をすれば良い…とはいかない
まずは腱鞘炎の手術について知りましょう。
最悪の場合は手術となります。炎症を起こして腫れている腱鞘を外科手術で切開して物理的に取り除くことで治療をします。この手術は特に難易度が高いものではなく、時間としても20分程度で終わるもので難しいものではありません。
…とはいえ、安易に手術という考え方ができないのが腱鞘炎です。
何故かと言えば、この手術は切開できるようになるまで腱鞘が腫れている必要があるからです。軽度の場合は判別が難しいので原則的に「切って取る」ということができません。
そのようなわけで、もし手術で治療をしようとすれば腱鞘が明らかに腫れるまで悪化させなければいけないことになります。
「手術を可能にするために悪化させる」なんてアプローチは本末転倒も甚だしいため、腱鞘炎に対して『手術をすればよいだろう』と考えるわけにはいきません。
・まず考えるべきことは「無事な腕」の保護
腱鞘炎が両腕に同時発生することはまずありません。大抵の場合で効き腕に出ていることでしょう。
こうなるとしばらく利き腕ではない方で日常生活を送ることになりますが、これは「通常使わない腕で通常ではない動作を行う」ということになりますので負担が大幅に増えます。
両腕が腱鞘炎になってしまうと生活が極めて難しくなりますので、とにもかくにも最優先するのは「無事な方の腕が腱鞘炎にならないこと」です。
具体的な対策については湿布とサポーターの併用です。これについては下の内容に記載しています。
・腱鞘炎治療において知るべきこと10個
腱鞘炎には「ドケルバン病」と「ばね指」の2種類があります。
ドケルバン病は手首に痛みがくるもので、ばね指はその名の通り指に痛みがくるものです。これは種類として分類がされてはいますが、治し方に対する基本的なアプローチは変わりません。
ちなみにPC作業を頻繁に行う場合になるのがドケルバン病です。マウスを握ったときの筋を捻る動作が蓄積されていくことで発生します。
ドケルバン病になると『手首を回す』という動が出来なくなるのでドアノブを回せなくなったりします。これだけでも日常生活が如何に面倒になるのか分かるはずです。
では腱鞘炎の治し方ですが、これは残念なことに自然治癒に頼るしかありません。
もちろんそれを効果的にしてくために行う作業もありますが、本質的には身体の回復能力によります。『こういうことをすれば治る』という具体性のある方法が存在しません。ごく当たり前のことを組み合わせて地道に治すしかないのが腱鞘炎です。
ここでは手首に発生するドケルバン型腱鞘炎を中心にして進めていきます。
・知るべきこと① 動かさないことが基本
『何を当たり前のことを』と言われてしまいそうな気もしますが、固定すること(動かさないこと)が最も基本であり重要な治療方法です。正確に書けば治療方法ではなく、症状進行防止方法と言った方が正しいですが…。
炎症は動かしているから起こるものであるので動かさなければ進行しません。とても簡単で当たり前の理屈です。
手首なんて自然と動いてしまうものなので『動かすな』と言われても無理があるわけですが、それでも以下の3つを意識すれば腱鞘に対する負荷を大幅に減らすことが出来ます。
(1)指先にチカラを入れない(2)手首を反らさない(3)手首を回さない(捻らない)
この3つを避ければ「悪化」は防げます。
(1)に関しては生活上仕方がない場合も多々あると思いますが、(2)と(3)は絶対に避けるようにしてください。
・知るべきこと② テーピング治療は良し悪し
腱鞘炎治療の方法として「テーピング」がありますが、これはリターンとリスクが混在している行為です。
正しい方向と正しいチカラで行えば確かに治療には有効ですが、間違った方向と間違ったチカラでテーピングを行ってしまうと逆効果になってしまう場合があります。
そのようなわけで、初期の段階でのテーピング治療はあまりおすすめしません。「指先にチカラを入れない」を守った方が低リスクで安定した効果が見込めます。
・知るべきこと③ サポーターは有効
テーピングはハイリスクハイリターンですが、サポーター程度であればローリスクで確実な効果が見込めますので原則的に付けておくことをおすすめします。
これは腱鞘炎が起きていない方にも予防として有効です。本来の意味としては「発生させない」ためのものなのでむしろこちらの方が正解かもしれません。
腱鞘炎用として市販されているサポーターも購入するべきですが、それよりも必須となるのが「普通の包帯」です。サポーターは形状や締め付け具合をコントロールできないため包帯の方が使い勝手として優秀です。
そのようなわけで最低限普通の包帯だけは購入しましょう。
…ただ最近はこの「普通の包帯」が中々売って無かったりもします。それなりの規模のドラックストアであっても「伸縮しない包帯」「伸縮する包帯」しか置いていないこともシバシバです。
伸縮しない包帯はストレッチ性が無さすぎますし、伸縮する包帯は耐久性の面でちょっと困りものです。可能な限り「普通の包帯」が欲しいところですが、見つからない場合は「伸縮する包帯」を厚手に巻いて対応しましょう。
・知るべきこと④ 湿布は確実な治療方法
腱鞘炎の治療方法は基本的にこれです。
『湿布程度で大丈夫なの?』と思われる場合もあるかと思いますが、腱鞘は手首から浮き出してる部分です。筋肉の壁が無く皮膚の直下にあるため湿布の抗炎症作用が最大限に効きます。
そのようなわけで湿布が治療の基本となります。湿布を張った上から包帯・サポーターで固定して剥がれないようにしておきましょう。
腱鞘炎の自覚がなくともPC作業を日常的に行う場合はたまには「湿布を張って寝る」くらいのことはした方が良いです。予防を超える最善はありません。
では湿布の選び方は…と行きたいところですが、それは一旦さておき次の項目に行きましょう。
・知るべきこと⑤ 病院にはいくべき
ここまでを読まれた方であればお分かりだと思いますが、腱鞘炎の治療は病院に行ったからといってすぐさまどうにかなるものではありません。『湿布を張って包帯を巻くだけなら病院に行っても意味が無いのでは?』と考える方も少なくないでしょう。
…とはいえ、病院には可能な限り行きましょう。
『なんだか手首に違和感があるなぁ…』程度であればそこまでではないかもしれませんが、『これは腱鞘炎だ』と自覚しているのであれば可能な限り行くべきです。腱鞘炎なので整形外科があるところですね。
病院に行く理由は以下の2つがあります。
(1)抗炎症作用の強い湿布が貰える(2)ステロイド剤注射を打てる
ステロイド剤注射は必ずしも即効性があるわけではありませんが、これで楽になるなら儲けものです。
市販の湿布は安いもの(白くてぶよぶよしているタイプのもの)を使うのはやめましょう。あれは抗炎症作用が弱いので治療効果が望めません。
個人的にはロキソニンテープをおすすめします。市販だとお高いですが病院から処方を受ければ3割負担で済みます。
・知るべきこと⑥ 病院に行く前には痛む箇所をチェック
病院に行く前にすべき事として「どの部分が痛いのか」ということを予め知っておくとベストです。
お医者さんはほぼ間違いなくこれを聞いてくるので明確に自覚しておくとその後の対応(※どこに注射を打つのか等)がスムーズになります。
軽度の場合は痛い場所を明確に特定するのは難しいと思いますが、もしそれがしっかりと自覚出来る場合はマジックでちょんちょんとポイントを付けておくと良いです。
マジックの色は青が良いですね。青がベストですが無い場合は黒でも良いです。赤だと注射を打った後に位置を確認するのが分かりにくいのでやめましょう。
また、着る服に関して二の腕まで大きく腕まくりできるものが理想です。低周波治療をする場合は肘から先をお湯に付けたりすることがあるため、二の腕くらいまで腕まくりが出来ないと面倒なことになります。
・知るべきこと⑦ 着る服もかなり大事
腱鞘炎になると、以下の2つの意味で服に対する重要度が増します。
(1)脱ぎ着の問題(2)体温調節の問題
脱ぎ着の問題については想像が付くことでしょう。腱鞘炎になるとボタンの開け閉めも難しくなってしまうため、この辺りに対する配慮が必要になってきます。
重要なのが体温調節です。原則的に湿布を24時間張り続けることになるため、汗をかいてしまうとどうしても皮膚に「かぶれ」が発生してしまいます。
これが地味に嫌なんですよねぇ…貼らないと治らないけど張ると痒い…。
痒いだけなら何とかならないこともないですが、寝ている間に無意識のうちに剥がしてしまうことがあったりします。肌がかぶれてしまうのは積極的に防ぎに行くべきです。
夏場であればどうしようもありませんが、冬の場合は厚着をしないことで発汗を防ぐことが可能になります。なんとか工夫して『風邪を引かない程度に寒くない状態』を作りたいところです。
・知るべきこと⑧ 身の回りの道具を変える
身の回りの道具や普段の動作を変える意識も必須です。発生した原因を取り除かないと「再発」することが目に見えています。
住環境については人それぞれだとは思いますが、個人的には以下の部分は絶対に無視するべきではないと考えます。
・ドアノブ・PCにおけるマウス・スマートフォン
特に注意したいのがドアノブです。今現在丸型の掴んで回すタイプが付いている場合は可能な限りレバー型に交換してください。
丸型は以下のようなもので…
レバー型は以下のようなものになります。
『賃貸だから交換とかはちょっと…』『交換とかよく分からない』という場合でもアタッチメント式のレバーが販売されています。
既に書いていますがドアノブを回す動作は腱鞘炎を悪化させる最悪のものです。これは絶対に避けて下さい。
次に注意すべきはマウスです。こちらはある意味ではドアノブより重要と言って良いかもしれません。今の時代に手首の腱鞘炎になる場合はほとんどの場合でPC作業が原因となるバスですからね。
PC作業を原因とした腱鞘炎であればエルゴノミクス形状のマウスに変更するべきです。ノーマルマウスと比べると精密なクリックがやりにくくはなりますが背に腹は代えられません。
エルゴノミクスマウスは様々な形状と大きさで使用感が大きく変わってくるので複数個購入してベストなものを探したいところです。
ちなみに今のところ個人的なベストはこちらのマウスです。
<関連記事>中華メーカーDAREUのエルゴノミクスマウスがすごい
一番最初に買ったものですが現状はこれを超えるものがありません。中華メーカーなのでお値段もお安いです。
もっと書きますと、ドアノブも中華サイトで大量購入して変えれる箇所は全て変更しています。
国内製品と比べると半値くらいで買えるんですよね…。品質的には国内製品の方が良いのかもしれませんが、家中のドアノブを全て変更する場合は結構な金額になったりします。
スマートフォンに関しては「使用頻度を下げる」「片手での操作は避ける」「なるべく手に持たないで操作をする(机に置いて操作をする)」程度は意識しましょう。
可能であれば軽量なものに買い替えたいところです。重ければ重いほど手首への負担は増えます。
・知るべきこと⑨ 回復の目安は握力
腱鞘炎は治っているかどうかの判断がかなり難しいです。
治療のためには動かさないことしかありませんが、この時期が長く続くと「通常の動作」の感覚が狂ってしまうのでどうあっても違和感を感じてしまいます。言うまでもなく、治りつつある状態で無理に動かすこともよろしくありません。
腱鞘炎の「治り具合」は握力を使って「力を込めやすいかどうか」で判断してください。手首を動かして確認するようなことはNGです。
治療が上手くいっているのであれば最初の状態よりスムーズに握力を込めやすくなっているはずです。片方の手を同じ感覚で握力を込められるのであれば「完治」です。
・知るべきこと⑩ 腱鞘炎は治せる
ここまで書いていることをきちんと注意し、時間さえかければ腱鞘炎は十分に治せます。
しかしながら、これは言い換えれば『時間をかけないと治らない』ということでもあります。 1週間2週間で完治するようなことはありえません。長い間の小さなダメージが積み重なったものですので、その分だけ治すのにも時間がかかります。
長い目で見てゆるりと癒していきましょう。
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