何気に奥が深い「ルック車」についての話

ネット上でスポーツ系の自転車を調べようとするとほぼ間違いなく「ルック」「ルック車」という単語に出会います。

この単語に拒絶反応が出る場合は良くも悪くもサイクリストでしょう。特に何も感じないのであれば一般の方です。そしてこちらの方が確実に健全です。日本国で自転車を趣味にしてもあまり良いことは無かったりします。まぁそんな部分で趣味を選ぶ人はほとんどいないとは思いますが。

今回はこの「ルック車」についてのお話です。


いきなりですがこの単語、実は明確な定義がありません。

ニュアンスとしては『見かけだけスポーツバイクっぽい自転車』というもので共有されていますが、それ以上となるとそれぞれで違ったりしますので地味に大変です。

ルック車を定義する要素としてざっくりまとめれば以下の5種類が挙げられます。

(1)フレーム設計
(2)安全性
(3)ブランド性
(4)セットされているパーツ
(5)価格

では、それぞれについて説明していきながらルック車とは何かについて考えていきましょう。


(1)フレーム設計

これは「ジオメトリが記載されていない」という問題です。

ジオメトリというのはフレームの細かい寸法を示す数字のことです。例を出せば、前後ホイール間の寸法が1000mmだとかそういう部分です。『サドルの高さがどこまで上げられる』といったものはパーツの問題なのでジオメトリではありません。

ジオメトリはフレームの設計図です。この数字でそのフレームの持つ性質が決まりますので非常に重要となります。ジオメトリがどれくらい重要かと言えば、ジオメトリ次第ではバランス感覚がろくになくても両手で手放し運転ができたりします。

『ジオメトリが記載されていない』ということは『ろくに設計をしていない』か『精度なんて考えもせずに作っている』ということになります。ごく当たり前に考えればこのようなものは買えません。

例えるのであれば、細かい寸法が載っていない服を通販するようなものでしょうか。

『Sサイズ、Mサイズとだけ書かれても買えるわけないだろう』…と考えるのが自転車ファン的な思考なわけですが、『別にカジュアルウェアならサイズ表記だけで良くない?』と考える方もいます。

この辺りはこだわりと知識量の差によってどうしても発生してしまいます。

サイクリスト的には「一張羅のスーツを買う」くらいの意識ですが、デビューユーザーからすれば「Teeシャツを買う」くらいの意識です。スーツを試着・寸法確認無しで購入する人はいません。ただTeeシャツくらいであれば表記を見るだけで買う人も結構います。

個人的にはルック車を決定する要素はこの「ジオメトリの有無」だと考えます。

…といいますか、これしか定義しようがありません。他の(2)~(5)までは程度の話です。程度の感覚は人それぞれで違うので均一にはなりません。ジオメトリについては『有るか無いか』でしかないので誰がどう見ても答えは同じになります。

いきなり答えが出てしましましたが、ルック車を定義するのは(1)となるはずです。『細かい数字なんてどうでもいいから』と考える方も多いと思いますが、だからといってルックであることは覆りません。


そんなわけでルックor非ルックの境界線上にいるTOTEMさんはジオメトリを載せていないのでルックとなります。105がアッセンブルされていようがラピエールの下請けだろうが関係がありません。

TOTEMに限って言えば、写真で見た感じではきちんと整っているロードバイクらしいジオメトリです。

何故公開しないのか…ということになると、これはジオメトリを公開してしまうと乗れる人間の寸法がバレてしまうからですね。購入者の間口を広げるために非公開としています。

(2)安全性

はい、次は安全性ですね。『安物であるからパーツが廉価品である、故に安全面で心配となる』というロジックでルック認定する場合です。

これはこれで最もな話ですが、では高級だからといって安全であるとは言えないのもまた自転車です。

例えば、高級折り畳み自転車の筆頭として名高い「モールトン」という自転車があります(ご存知でない場合は検索してください)。それはそれはすてきな見た目の自転車です。しかしながら丈夫ではありません。

いやまぁ所有者でもないのにこんなことを書くのもどうかと思いますが、あれだけ細いパイプを使用した折り畳み自転車です。頑丈であるはずがありません。誰が見たって分かります。

モールトンをルック認定するサイクリストはおそらく世界のどこにもいないでしょう。しかしながらこのロジックに沿うとモールトンはルックになってしまいます。なんてこったい、あの憧れのモールトンが!

実のところ「一流」とされているスポーツ自転車メーカーでも話題にならないというだけでリコールなんて頻繁におきています。

『言うてもメーカー品の方が安全しょ?』と言われれば全くその通りです。しかしながら安全性というのはかなりの部分でさじ加減になるというのも事実です。自転車のような機械部分が少ない道具だと特にそうなってしまいます。

モールトンに『耐久性弱い!』という文句が来ないのは購入するユーザー側が「全て分かっている」からです。もしあの自転車がドンキで1万円で販売されていればどうなっているか何て書くまでもありません。

この道理をOKとするのであれば、例え安物であってもユーザー側がそれを分かってさえいればルックはルックでなくなってしまいます。

普段のカジュアルウェアで富士山に登るのは愚か者ですが、近所の小さい山くらいであればごく当たり前の光景です。最終的には使い方次第となります。

(3)ブランド性

ある意味王道であり、最も普及しているかもしれないのがこちらのやり方です。ブランドで区別してしまおうというもの、確かに分かりやすい区分ではあります。

しかしながら、これは前提として世の中に存在するバイクメーカーを全て知っておかないといけないと機能しません。

日本国はオンロードを走るサイクルロードレースがヒエラルキーのトップにあるせいか、そのレースで使用されるメーカー以外は「無名」であると判断する人間がまま存在します。

どんな考え方をしようが個人の自由ではありますが、これはあまりにもつまらないというものでしょう。レースだってグランツールが全てではありませんし、今はトップカテゴリで使われているメーカーであっても設立当初からそうだったわけではないのですから。

ブランドというのは個人の印象でしか決まりませんので均一になりません。定義として用いるのは限りなく不可能と言えます。

(4)セットされているパーツ

アプローチとしては(2)と同じような感じですが中身がかなり異なります。

これは「使われているパーツのグレードが低いから」ルックとして認定するというものです。安全性という主観に基づいたものよりは明確だと言えます。

とはいえ、やはりこれも定義として用いるのは無理筋です。

例えばですが、良く言われるものとして『リアホイールがボスフリー規格になっているのはルックである、なぜならカセットの交換が出来ないから』 というものがあります。

確かにボスフリーだとその辺りが面倒ですので購入後のことを考えれば避けた方が正解でしょう。

実際に7S以下の自転車はジオメトリが記載されていないことが多いです。「リアの変速数が7速以下のものはルックなので買わないでください」は何も知らないユーザーに対しても分かりやすいため、注意喚起としては最も有効であるとも感じます。

しかし残念ながらこれにも抜け道があります。

古き良き往年のロードバイクはハイエンドクラスであってもリア7速のものも当然に存在しました。シマノの変速機に対するイメージ(※当時は今のような高性能というイメージはありませんでした)を一新させた7400系デュラエースは7速です。

この理屈であればデュラエースもルックになってしまいますが、パーツに主観を置いておきながらデュラエースをルック扱いにすることは出来ないでしょう。

それに大多数の方は自転車のカスタムなんてやらないのが現状です。見た目に満足して走って止まれば良いのです。パーツに性能なんて求めませんし、壊れたとしても『買い替えればよい』程度の認識です。

パーツのグレードでルック認定をするのは差別的なのでちょっとよろしくありませんね。

(5)価格

『値段が安いからルックである』。身も蓋もありませんがこれも間違いではありません。

しかしながらインターネットにより物流が拡大した今となっては価格の意味は大きく低下しています。生産工場から買い付けてしまえば自転車のフレームなんて1/5以下まで安くなるのが現実です。

そのような特殊なことをしなくても海外通販をちょろっと除けば日本での販売価格がいかいに高いか分かってしまいます。

下手をすると日本価格の半額くらいになっていたりするメーカーもあります。まぁそういったメーカーはほぼ間違いなく日本から買えないようになっていますので知ったところで意味があるわけではないですが。

価格でボーダーを引くのは結構大変です。一般的には「5万円以下のロードバイク」はルック認定だと思いますが、中華通販に腰まで浸かった身としては5万円もあれば十分にまともなロードバイクが組めることを知っています。

そもそもロードバイクはそれほど高い自転車ではありません。MTBの方がよほど高額です。MTBを安く組むことは絶対に出来ません、ロードバイクの3倍値段がかかります。

ロードバイクを安く組むのは自転車趣味が10年くらい続けば誰でも出来るようになります。特別な知識も技術もいりません。熱意さえあれば1年未満でも不可能ではないでしょう。youtubeに動画がたくさんありますし。

そんなわけで、やはり価格で判別するのも困難です。『アマゾンで3万円くらいで販売されているもの』というシチュエーション付きであれば確認することなくルックで良いですけれども。

ルック車は、買ってよいのか、悪いのか

うーん…どうなんでしょうね。『できるだけ選ばない方が良い』なんてことは誰だって分かっているはずなので書いても仕方がありませんし。

ただ、個人的に「もし今の知識や経験をストックした状態で中学生くらいまでタイムスリップした」と想像すると、ほぼ間違いなくルック車を買うと思います。

だって『自転車が無い』というのはそれ以前の問題ですからね。10万円貯まるまで待つなんて時間の無駄にしか思えませんし。2万円3万円のものであっても『無いよりはマシ』というものでしょう。

大学生くらいであればちょっとバイトでもして10万円弱くらいの価格帯のものを買うと思いますが、多くの場合でルック車の購入対象となるのは中学生・高校生です。これくらいの年齢で10万円の自転車をホイホイと買うのはまずありえません。

…というわけで、よろしく無いことは分かっていますが多分買います。


ただまぁ『ルック車を買う』となると、どれを選んでいいのか難しいのでこういった意味ではかなり困るところだったりもしますが。

たまに調べたりしますが、フラットバーの自転車(クロスバイク)であればこちらのものがかなり良い感じですね。アマゾン内での評価も比較的高い方でしょうか。
https://amzn.to/32Jl3xo

相も変わらず数値は非公開ですが見た感じではとてもまともなジオメトリです。フロントフォークのタイヤクリアランスも相当にあります。これくらいあれば40Cのタイヤがいけるんじゃないかと。前後にダボ穴が付いているので泥除けの取り付けも容易です。チェレステっぽいカラーリングもありますし。

リアタイヤがどこまで大きく出来るのかが謎ですが、ちょいちょいと手を加えればフルリジッドのセミMTBくらいになりえるフレームに見えます。

ロードバイクに関しては…まぁTOTEMですかね。とりあえず買う、そしておカネが貯まったら中華のカーボンフレームを買ってコンポーネントを乗せ換えるという流れになると思います。

TOTEMであればフレームセットでもリユースが可能でしょうし。多分1年間くらいヤフオクで出品し続けたら5000円くらいで売れるんじゃないかと。フレームセットの需要は結構あります。
 

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